待ち合わせ場所に着くと、彼女はすぐに分かりました。
背が高く、ショートヘアがよく似合う。けれどその佇まいには、仕事で人に見せるであろう顔とは違う、どこか迷いを含んだ静けさがあったように思えます。
「はじめまして」
はっきりとした声だったが、その奥にわずかな揺れがある。私は軽く頷き、歩き出す。隣に並ぶと、彼女は意識しているのか、少しだけ距離を取っていた。
ホテルの部屋に入ってからも、最初は言葉を選んでいた。だが、ぽつりぽつりと本音が混じり始める。
「こういうの、初めてで…でも、ちゃんと感じてみたくて」
その言葉は強がりではなく、むしろ正直すぎるほどだった。私は急がず、彼女の呼吸に合わせるように時間を進める。会話を重ねるうちに、彼女の表情は少しずつほどけていった。
「もっと…ゆっくりでいいです」
そう言えるようになった頃には、最初の緊張はほとんど消えていた。触れられることに対する怖さよりも、確かめるような受け止め方に変わっていく。
しばらくして、彼女は小さく息をつきながら言った。
「思ってたより…怖くないんですね」
その一言に、どれだけの不安を抱えてここに来たのかが伝わる。私はただ頷き、彼女のペースを崩さないように意識した。
時間の終わりが近づく頃、彼女はベッドの端に座り、静かに微笑んだ。
「なんだか…ちゃんと女性でいられた気がします」
それは誰かに証明してもらうための言葉ではなく、自分自身に向けた確認のようだった。
外に出ると、夕方の光が柔らかく街を包んでいた。彼女は深く一度息を吸い、「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げる。
来たときよりも少しだけ肩の力が抜けたその背中を見送りながら、私は思う。特別なことをしたわけではない。ただ彼女が、自分のままでいられる時間を持てたのなら、それで十分なのだと。